小規模なNPOでもできるハラスメント防止の仕組みづくり 「人の温かさ」と「ルール」が共存する組織へ
地域のNPO法人やボランティア団体の多くは、数名から十数名の小さな組織です。
理事と職員が兼務していたり、利用者やボランティアが家族のように近い関係で活動していたりすることも珍しくありません。
しかし、そんな温かい関係性の中にも、ハラスメントの芽は潜んでいます。
むしろ、関係が近いからこそ境界が曖昧になりやすく、トラブルが起きやすいのが現実です。
「うちには関係ない」と思わないことから始めよう
ハラスメントという言葉を聞くと、
「大企業の話でしょ」
「うちはボランティア団体だから」
と感じる方も多いと思います。
しかし、厚生労働省の調査(令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」)でも、ハラスメントは組織の規模に関係なく発生しています。
- 指導のつもりが、威圧的と受け止められた
→パワーハラスメント(パワハラ) - 「親しみのつもり」がセクハラと感じられた
→セクシャルハラスメント(セクハラ) - 利用者や家族からの暴言に職員が苦しんでいる
→カスタマーハラスメント(カスハラ)
こうしたケースは、市民活動の現場でも日常的に起こり得ます。
ハラスメント防止は「備え」であり、「信頼づくり」の一環だと考えられます。
まずは「方針」を言葉にして、共有する
最初の一歩は、「うちの団体はハラスメントを許さない」という意思を明文化することです。
これは立派な規程でなくても構いません。
次のような“ハラスメント防止宣言”を、理事会で決議し、職員やボランティアと共有することから始められます。
例:【私たちの団体のハラスメント防止方針】
私たちは、互いを尊重し合い、安全で安心できる活動環境を守ります。
あらゆるハラスメントを認めず、相談があった場合は迅速かつ公正に対応します。
誰もが気持ちよく活動できる現場や職場をつくることを誓います。
このような方針を掲げることで、団体としての立場を明確にできます。
「問題が起きたときにどうするか」を事前に言葉にしておくことが、後の対応をスムーズにします。
小さくても作れる「相談窓口」
「専任担当者を置ける人員がいない」という声は多いですが、理事・職員の中から信頼できる人を窓口にすることから始められます。
相談窓口を最低1名決め、団体内で共有します。
相談を受けたら、必ず「日時・内容・対応」を記録しておくのがポイントです。
Googleフォームなどの無料ツールを使えば、匿名で相談を受ける仕組みも簡単に作れます。
「直接は言いづらいけど、何かあったら伝えたい」という声を拾うためにも有効です。
必要があれば、弁護士や社会保険労務士、行政書士など外部の専門家や士業、人権相談窓口に相談することもできます。
中立性を保てるため、代表者が関係当事者の場合にも有効です。
「相談しやすさ」を文化にする
制度を整えても、「相談してもどうせ無駄」と思われては意味がありません。
大切なのは、相談しても不利益を受けないという安心感を育てることです。
そのためにできる工夫として、次のような取り組みがあります。
- 相談窓口の担当者を紹介し、顔を見せる(安心感づくり)
- 団体のミーティングで「気になることがあったら相談を」と定期的に呼びかける
- 理事やリーダーが「相談を歓迎する姿勢」を言葉にする
これらの小さな積み重ねが、「声を上げやすい文化」をつくります。
研修・勉強会を“お茶の間感覚”で
ハラスメント防止の研修というと、「堅苦しい」「時間が取れない」と感じがちですが、
15〜30分の短時間研修でも十分に効果があります。
たとえば、月1回のミーティングでこんなテーマを取り上げるのも良いでしょう。
- 最近の職場・活動中で気になる言動
- 「ほめる」「叱る」ときの伝え方
- 感じ方の違いを理解するワーク
また、厚生労働省や自治体のウェブサイトでは、無料で使える動画教材やチェックリストも充実しています。
明るい職場応援団(厚生労働省)
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
「難しく考えず、みんなで学ぶ時間をつくる」ことが、最大の予防策です。
外部の“目”を取り入れる
小規模団体では、人間関係が近い分、内部だけで判断するのが難しい場合があります。
そんなときこそ、外部チェックを活かすことが重要です。
- 市民活動支援センターや専門家への相談
- 理事会に外部理事を招く
- 定期的に、外部監査を受ける
外部の目を入れることで、ハラスメントだけでなく、組織運営全体の透明性も高まります。
ルールを「紙一枚」に落とすだけでも違う
小規模NPOを支援していると、「うちは規程なんて作る余裕がない」とよく言われます。
でも、実際にはA4用紙1枚のルールメモから始められます。
例:【ハラスメント対応のルール】
- 相談を受けたら記録し、理事会に報告する
- 関係者のプライバシーを守る
- 外部機関にも相談できることを案内する
この3行だけでも、れっきとした「ルール」です。
重要なのは、「組織としてどう動くか」を明確にしておくことです。
形式よりも、実際に動ける仕組みを残すことが大切です。
人を大切にする文化を育てる
ハラスメント防止の目的は、加害者を罰することではなく、誰もが安心して活動できる環境をつくることです。
小規模だからこそ、メンバー一人ひとりの存在が大きく、その信頼関係が団体の力そのものになります。
ルールは「信頼を壊さないための道具」です。
温かさとルールが両立するNPOこそ、地域に長く愛される組織となると思います。

